“山科問題”について
世の中には、「営業キロが100を超える乗車券を所持し、東海道本線の大
津方面から湖西線の西大津方面へ、新幹線の列車などの、山科を通過する列車
から、京都で普通列車に乗り継ぐ場合に、山科で途中下車をすることができな
いのは、おかしい」などと、規則,規程の趣旨をよく理解していない発言が、
意外に多い。
その発言の“根拠”である“理屈”は、「営業キロが100を超える乗車券
を所持している場合に、山科で途中下車できるのは、旅客営業規則で認められ
た権利であり、それを、旅客営業取扱基準規程で制限するのはおかしい」とい
うものである。
よく読んでほしい。旅客営業取扱基準規程で制限されているのは、山科にお
ける途中下車ではなく、山科−京都間の往復分の無賃乗車である。この無賃乗
車は、山科−京都間において途中下車をしないことを条件として認められる権
利であり、その条件を満たさない旅客に対しては、当然、適用されない。言う
までもないことであるが、これは、旅客営業取扱基準規程によって旅客営業規
則で認められた権利を制限しているわけではない。
すなわち、山科における途中下車を“制限”しているのは、旅客営業取扱基
準規程第151条ではなく、旅客営業規則第13条第1項,同条第4項,同第
67条なのである。旅客営業規則の条文によって旅客営業規則の条文に対して
“制限”を科しているわけであるから、何ら問題はない。
世の中には、「ある権利Aを放棄するのと引き替えに別の権利Bを得る」と
いう交換は、いくらでもある。
本件は、まさに、その例の一つであり、“権利A”(山科で途中下車をする
権利)を放棄するのと引き替えに“権利B”(山科−京都間を無賃で乗車する
権利)を得ているのである。
「約款(旅客営業規則)に反する通達(旅客営業取扱基準規程)などは認め
ない」という意見も、存在し得るかも知れない。しかし、その意見を押し通す
のであれば、「“権利A”の放棄」だけではなく「“権利B”の行使」も認め
てはならないはずである。「“権利A”の放棄」は認めないが「“権利B”の
行使」は認めるなどというのは、単なるわがままに過ぎない。
旅客営業規則(抄)
第13条 列車等に乗車船する旅客は、その乗車船する旅客車又は船室に有効
な乗車券を購入し、これを所持しなければならない。ただし、当社において
特に指定する列車等の場合で、乗車後乗務員の請求に応じて所定の旅客運賃
及び料金を支払うときは、この限りでない。
(第2項および第3項 略)
4 前各項の規定にかかわらず、駅員無配置駅から乗車する旅客又は係員の承
諾を得て乗車券類を購入しないで乗車船した旅客は、列車等に乗車船後にお
いて、直ちに相当の乗車券類を購入するものとする。
第67条 旅客運賃・料金は、旅客の実際乗車船する経路及び発着の順序によ
つて計算する。
旅客営業取扱基準規程(抄)
第151条 次に掲げる区間の左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐す
る線区から乗り継ぐ(急行列車から普通列車への乗継ぎを含む。)ため、同
区間を乗車する旅客(定期乗車券を所持する旅客を除く。)に対しては、当
該区間内において途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、当
該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。
(中略)
山 科・京 都間
(後略)